苦い風邪薬と甘い君の声

 

「ひーばーり」
 
 
大丈夫か?
ベッドで唸っている雲雀の頭に響かないように、山本は小声で確認する。
億劫そうに瞼を開けて、「・・・じゃない」と答えが戻ってきた。
 
 
(ああ~。大丈夫じゃないってことね)
 
 
山本は苦笑いをして、雲雀の頭を持ち上げて、氷のうをその下にそっと置いた。
もちろん氷でゴツゴツしないように、タオルを強いている。
しかし、雲雀はそれよりも別なことが気になるらしく、
 
「ねぇ、キミ学校は?」
「ああ~~」
「あるよね?」
「自主休校にしちまったのな」
 
要は、ズル休みだ。
だって、そんなの当然。
大事な雲雀が、会社を休んで隣の部屋で苦しんでいるのだ。
 
 
(学校なんて、のん気に行けないだろ?)
 
 
「1日ぐらい、サボっても平気だって」
「キミの学力のレベルが下がっても、僕は知らないからね」
「もちろん」
 
それよりも、アンタだよ。
ずーっと仕事ばっかり励んでいるんだからな。
熱が出て、当然だよ。
 
 
「煩い」
 
 
恨みがましくシーツを掴んだ雲雀が、山本の非難に睨んでいる(八つ当たりか?)
しかし、火照った頬と潤んだ眸では、逆効果だった。
寧ろ色っぽくて、手を出したくなる。
 
「が・・・まん」
「?何?」
「いやいや、何でもないのな」
 
思わずキスぐらい・・・と襲いたくなる気持ちをグッと堪えて、曖昧に山本は笑った。
だいたいキスだけで、終るわけはない。
食欲がないと逃げていた雲雀に、何か食べさせようと提案する。
 
「ヒバリさん、桃缶食べる?」
「いらない」
「なら、綺麗にウサギの形をした林檎は?」
「欲しくない」
「アイスは?ハーゲンダッツの新商品あるぞ?」
「ヤダ」
 
んー。
まだ会話ができるだけ、マシかもしれないけれど。
何か食べなきゃ、治るものも回復しない。
 
「ちょっと、待っててな」
「・・・どうしたの?」
「いいから、いいから」
 
雲雀のお気に入りのフルーツが、自分の冷蔵庫にあったはず。
山本は、自身の部屋に戻り、冷蔵庫を漁る。
少し季節は早いが、苺がある。
 
 
「ほいほい♪」
 
 
ガラスに入れた苺を雲雀に見せる。
眸を細めた雲雀は、フンと鼻を鳴らして食べたくないとアピールしている。
年上なのに子どもっぽいし、幼い。・・・でも、可愛い。
 
「美味しいぞ」
「ヤダ」
「一口だけ、な?」
「いらない」
「まーまー・・・な?」
「ちょっとだけだよ」
「ああ」
 
なんだか会話が、食べるかどうかの交渉じゃなくて、情事をするかどうかの会話みたいだ。
夜ベッドで、こんな会話をするなーなんて、笑ってしまう。
思わし笑いをすると、雲雀は自身が笑われたと勘違いしたようだ。
 
 
―― カプッ
 
 
もぐもぐ。
 
 
「もう、いらない」
「ひーばーり」
「あっち行って」
 
辛うじて1つは食べてくれた。
しかし、他は全く手を付けてくれなかった。
シーツを頭まで被って包まってしまう(まるで、芋虫みたいだ)
 
 
「出てって」
 
 
ていよく追い出されてしまった。
いつまでも、寝室にいると、雲雀の睡眠妨害になってしまう。
山本はしょうがないと「おやすみ」と笑って出て行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
苦い風邪薬と甘い君の声
 
 
 
 
 
 
 
 
「山本?」
 
 
どれぐらい、眠っていたのだろうか。
明るかった日差しがオレンジ色に染まっている。
あれだけ付きまとっていた山本は、寝室にいなかった。
 
 
(ずっと傍にいるとか、言ってなかった?)
 
 
別に、付きっ切りで看病して欲しいなんて思ってないけれど。
学校をサボった理由が、自分の看病なら、ずっと傍にいるべきじゃないだろうか。
注意深く上半身を起こしても、頭痛は起こらなかった。
 
「もう、ダルくない」
 
でも、腹が立っているし、お腹も空いている。
さっきは食べたくなかった苺が、だんだん恋しくなった。
1つ食べた苺は真っ赤で、艶々して美味しかったし。
 
「苺・・・」
 
ベッドから抜け出しフローリングに足をつけると、フワフワのスリッパがあった。
いつの間に、こんな暖かいスリッパが部屋にあっただろか。
足を入れると裸足の足でも、温かった。
 
 
 
 
 
 
「山本?」
 
 
キッチンで、お粥らしきものを作っている山本がいた。
パジャマ姿で、何も羽織ってない雲雀に、ああ~~!と大きな声を上げてた。
・・・煩い。
 
「ねぇ、何してるの」
「そんな薄着じゃ、ダメだろ」
 
人の質問に返事をする前に、パタパタとキッチンから出て行ってしまった。
手には、クローゼットから引っ張り出したらしいカーディガンがあった。
そして有無を言わさず、腕を通された。
 
 
(あれ?)
 
 
「これ、サイズが違う」
「俺んだからな」
「ふうん」
 
自身の指先まであるカーディガンをツラツラと眺める。
調理をしている山本の鍋を眺める。
蓋を開けると、湯気が立ったお粥だった。
 
 
「全然食べてないからな」
 
 
これは、食べなきゃダメてな?
体調も改善に向っているようだし、食欲も出てきた。
雲雀は、んと頷いた。
 
 
 
 
 
 
「卵雑炊」
 
 
どうだ?
パクンと一口食べると、ホカホカで美味しい。
胃に熱が篭って、体もホクホクしてくる。
 
「美味しい」
「そっか」
 
ふーふーっと盛大に熱冷ましをする雲雀に(猫舌のため)
山本は、ニコニコと笑って見守っている。
あまり視られると、居心地が悪い。
 
「薬も、飲んでくれよ」
「ヤダ」
「苺、食べるだろう?」
 
物々交換のつもりらしい。
雲雀は、スプーンを咥えたまま、ふくれっつらで睨むのだった。
 
 
 
 
 
HAPPY様の3周年フリーリクの時にリクエストさせてもらった小説です!
山雲です♥
3周年おめでとうございます!!